樹霊 完成にあたって 2008.11.8

樹霊 -イン・サーチ・オブ・ザ・ソウル・トゥリーズ-

Asturias AS-0004 紙ジャケリミックス仕様

2014年3月21日発売 ¥2.500(税抜)(オリジナル盤 2008年11月発売)

Part1 (23:14)

ⅰ spirits 精霊の踊り

ⅱ revelation 啓示

ⅲ reincarnation 輪廻転生

ⅳ fountain 源流

ⅴ woods 迷いの森

Part2 (27:15)

ⅵ pilgrimage 巡礼

ⅶ paradise 雲上の楽園

ⅷ woods storm 嵐

ⅸ soul trees 木霊

ⅹ dawn 夜明け


このアルバムの完成にあたって解説を書こうと思いますが、はっきり言って人生で最も思い入れの深い作品となりまして、文章にして思いが空回りしないか心配です。伝えたいことがちゃんと伝わるといいのですが…思い向くまま書き連ねてみたいと思います。

 まずいつからこのような組曲形式の作品を作ろうと思ったか…。たぶん13歳で「チューブラー・ベルズ」を聴いてから、いつかは自分もこのような作品を作りたい、と夢に見ていたように思います。現実的には1st、2ndのタイトル曲で(今聴いて決して満足出来るものではありませんが)曲がりなりにも20分強の組曲を発表。1993年の3rdアルバムで短い曲の集まりでしたが、なんとか満足出来る作品集を発表することが出来、次こそは「チューブラー」スタイルのアルバム1枚でpart1&part2の2曲収録というのをやってやろうと密かに誓ったものでした。 それからが人生中々思うようにいかないもので(^^;)、9年間の休業期間は心のかたすみにその思いがありながらも、日々の雑務に追われる毎日。それが2003年、偶然の出会いがきっかけとなりアコアスとしての活動再開という、思わぬ事態に発展していくことになりました。ちょうどそのころZIZZ STUDIOさんとのからみでゲーム音楽の作曲を数こなしていくうち、自分なりのインスト作曲法に手ごたえを感じつつ、具体的にプログレ組曲の構想を練り始めました。

 さて実際に作曲作業にとりかかるのですが、プログレ組曲の場合、いかんせん通常の方法があまり役に立ちません。アストゥーリアスの曲はプログレといっても、特にメロディーや曲構成がかっちり決まっているのが特徴になっていて、その点通常のポップス系のスタイルに近いものがあります。例えば1コーラスでA-B-サビ、これをひとまとまりとして間奏はソロっぽくとか、ブリッジをはさんだり…。世の中のほとんどの曲はそういった構成で5分以内にまとまっています。さて組曲を作る場合、そういった短い曲をつなげて組曲にするというスタイルもありますが、せっかくだからもっと構成には懲りたい、とことん斬新なものを追求したいと思い、過去のプログレ組曲の名作を改めて研究し始めました。いろいろ聴いていって5大バンドの曲等、さすがに名曲と呼ばれる曲のパワーは素晴らしく、今更ながらに圧倒されつつも、それらが後世のバンド達に繰り返し受け継がれ、良くも悪くもプログレの定番スタイルとして食傷気味になっている感は否めません。

 そんな私にとって独自性という意味で他を圧倒している作品が、マイク・オールドフィールドの初期三部作(中でもTubular Bells)です。一人多重録音でフォーリズム編成にとらわれない自由なアレンジ、ロック系の楽器を中心としたインストゥルメンタル組曲で、実験精神に満ち溢れているにもかかわらず、親しみ易くリリカルなメロディーが全編を貫く、これだけ音楽が氾濫している現代にあって前代未聞、奇跡のような作品です。もちろんプログレの歴史に燦然と輝く名盤ですが、その手法を正当に受け継いでいるものは極めて少なく、私の知る限り、うちの1st、2ndを含めても数例しかないのではないでしょうか。マイクさん本人ですら、その後の作品はそこまで手をかけていないというか(もちろんいい作品ばかりですが)、最近のリメイクものに至ってはデジタル臭さが耳について、商業量産主義に走っていると言わざるを得ません。なぜ一人多重録音の真っ当な継承者は少ないのでしょうか?今回やってみて一番感じたのは“大変だからだろう”ということです。

 やはりあれは19歳の純真無垢なマイク青年にしか作れない代物だったのでしょう。当時のヴァージンのマナースタジオの空き時間を利用し、数々の楽器や機材に囲まれ、自らの思うまま理想とする音楽をこつこつと作り上げていくさまは、彼にとってこの上ない幸せな時間であっただろうと思います。しかし、その神経をすり減らす根気のいる作業は、その後の病気療養にもつながり長くは続きませんでした。

 あの当時のマイクさんにとって作曲作業は、自らの引き出しの中から宝石のようなアイデアを、ひとつひとつ取り上げていくようなものだったのでしょう。後年に比べ作曲技法的にもまだ未熟な面があり、偶然つなぎ合わせたことにより(当時はテープ編集)斬新な構成になったという部分も多いのではと想像します。結果的に未熟ささえも魅力に変えてしまう、まさに神懸かり的作品となった訳ですが、そのような作品を、音楽業界の酸いも甘いもそれなりに経験した45歳のオヤジが挑戦しようというのです(!)。これだけ音楽が氾濫しているこの現代で…。

 もちろん良いメロディーを持ったたくさんのパーツが必要となりますが、どうすればマンネリプログレと思われないような斬新な構成・展開に持っていけるか(そんなことが可能か?)。何よりもそこにこだわって煮詰め続けた4年間でした。日頃はついセオリー重視で作曲してしまいがち(^^;)なのを封印し、初心に返って(本当に音楽に夢を持っていた頃の純粋な気持ちに戻って)取り組みました。候補となるパーツを次々と作りつつも、つなげてみてボツにするという繰り返し…。もちろんチューブラー手法にこだわりながらも、Asturiasならではの世界観をしっかりと主張出来るような集大成的な作品にしたい!思いのみが空回りしながらも年月とともに徐々に徐々に、なんとか形は整い始め、ベーシックトラックを録音し、ドラムのレコーディングがスタートしたのが2007年の11月のことでした。

 それからは一人多重録音というスタイルの特色を生かすべく、弾けるものは極力自分で弾くという精神で、こつこつダビング作業に入りました。マイクさんのように2.300回とはいきませんが、身近にある楽器をギター類を中心に10数種類、中にはマンドリン、チェロ、ハープ(Music Maker)など今回初めて使うものも取り入れ、12人いるゲストのみなさんとともに、多重ならではのセオリーにとらわれない編成で、多様な楽器群によりきらびやかなアレンジ的効果を狙いました。日常雑務のかたわら約10ヶ月で完成いたしましたが、録音自体は楽しく順調にこなせたなと今では思います。やはり本当の生みの苦しみは作曲作業中(特に構成を練る段階)にこそあったのでした。それでは後編で各曲(大きく2つのパート、細かくは10曲から分かれています)を細かく解説してみたいと思います。


 アルバム全体のイメージは森の中をさまよっている感じです。タイトルを直訳すると「魂の木を探して」というようなことになりますが、特に具体的な主張がある訳ではありません。ただ作曲の最中、常に自然の風景の中に身を置いているような視覚的イメージを持ちながらのぞみました。

 邦題「樹霊」は、英題が長過ぎるので往年のプログレ邦題のような、短くインパクトのある漢字邦題をと、作品の完成後に(印刷データ納品後)ポセイドンさんの提案で付けたもので、日本版オビにのみ記載されているものです(フランス・ムゼアレコードより全世界流通販売)。また”Soul Trees”という言葉はフンデルトワッサー氏の絵のタイトルから付けました。

Part1

ⅰ. spirits 精霊の踊り

 今作を聴かれた多くの方が「チューブラー(以下TB)」からの影響点を感じられると思います。TBの冒頭ではあまりにも有名な「エクソシストのテーマ」のミニマルフレーズが延々と繰り返され、そのテーマを元に自由自在に展開していきます。「エクソシストのテーマ」のパクリが世間に星の数ほどあるので、そうならないように気をつけ(^^;)、ここではリリカルな雰囲気は取り入れつつも16分音符を感じさせる13/8拍子のテーマで、独自の緊張感のある展開を狙いました。森の中に踏み入れ不安の中さまよい歩いている感じ、細かく動くシーケンス的フレーズで精霊たちが踊っているさまを表現しています。アコースティックとエレクトリックの微妙なバランスを保ちながら、調を変え楽器を変え、ミニマルを基本としながらも、飽きのこない変幻自在な展開を目指しました。花本さんのメロトロン(本物!)も登場、徐々に盛り上げそのまま次のパートへ。

ⅱ. revelation 啓示

 リリカルな雰囲気そのままで展開していきます。前パートからここまで、特に自由気ままに曲を展開させたく苦労したところです。前パートから筒井さんの木管群がいい味を出して、雰囲気を作ってくれます。森っぽい感じ(^^)に合いますね。そしてドラム&ベースが入ってシャッフルのロックパターンへ。マイクギター(!)が幾重にも絡み、ちょっと神が降りて来たような雰囲気でしたので「啓示」と名付けてみました。ミニマル展開で次のパートへ。

ⅲ. reincarnation 輪廻転生

 このパートはコード進行に工夫を凝らして、今までのアストゥーリアスにないような感じに仕上げました。組曲の中で、この辺でちょっと雰囲気を変える必要があると思い作った部分です。拍子や調がどんどん変わって目が回ってしまうような感覚。やっているうちにFLAT122の平田さんにギターソロを入れてもらおう、とひらめきました。FLAT122はメンバーの風貌も人柄もロックバンドのイメージからかけ離れた(^^)とてもユニークなバンドで、平田さんも“修行僧”と称される(^^)実に個性的なギタリスト。独特の浮遊感あふれるソロでバッチリ自己主張してくれました。中間部のベースパターンはテープループの手法(ザッパなんかが好んで使用)を使って(今やると簡単!)、無機質にリピートされる感じを狙ってみました。

ⅳ. fountain 源流

 目くるめく展開からいきなりアストゥーリアスらしいピアノのアルペジオ・パターンが始まります。輪廻転生して新たな生命のはじまり、という感じでしょうか。きらびやかな和声感で水がこんこんと湧き出るさまを表したつもりです。後半の展開はマイクさんへのオマージュ。アフリカンドラムとシンセの矩形波を使ったマイクフルート(勝手に命名!)で、この辺はそろそろ判り易い展開も必要かなとメロディアスな展開にしました。実はどんどん下降転調していって、川が流れていくような感じも表しています。

ⅴ. woods 迷いの森

 この曲は元々「Lamento」というゲームのBGMとして作られたものです。依頼がずばり“森をさまよっているような感じ“ということで、その世界観に入り込んで作りましたが、今回のアルバム全体の”森“のコンセプトは、実はこの曲から着想を得たところが大きいです。ワンコードのパターンが転調していくシンプルな構造ですが、怪しげな雰囲気がうまく出せたと思っています。伊藤さんのバイオリンが美しく、切ないメロディーを奏でると、栗原さんの登場です。栗原さんにはコード譜だけ渡して、お任せで完成ファイルだけもらったのですが、仕上がってきてビックリ!ロックでも癒し系でもなく民族的な雰囲気で、どんなソロを入れるかいろいろ試行錯誤してもらったみたいですが流石です(^^)。バイオリンとの掛け合い(実は後処理)、那須野さんの多重パーカッションが場を盛り上げたのち、組曲は一旦収束へと向かいます。今回Part1, Part2と組曲を2つに分けたのは昔のアナログレコードに習った訳ですが、音楽を集中して聴き続けるには25分ぐらいが限度ではないかと思っています(CDになってから長尺の作品も多いですが)。旧アナログ盤のようにB面にひっくり返して気持ちを入れ替えるという、そんなニュアンスも感じてもらえればと思います。

Part2

ⅵ. pilgrimage 巡礼

 こちらは元となったのが「シャマナシャマナ」というゲームのBGM。パーカッションと風変わりな音階がエキゾチックな雰囲気をかもし出し、「巡礼」というタイトルにさせてもらいました。山の尾根を越えて巡礼地に向かっているような感じ、マイクさんのアルバム名にもなった”Hergest Ridge”地方が(行ったことはありませんが)イメージの元になっています。そして登場する3人目のギタリストはお馴染み津田さん。ロングトーンのあの音色は伝家の宝刀!今回お願いしたお三方、三者三様誰が弾いているかすぐに判るプログレ・ギタリストの競演は、見事にバッチリはまってくれて狙い通りです。

ⅶ. paradise  雲上の楽園

 Part2のここで叙情的なパートを持ってくるのは、TBにならったものです。TBのあの部分は自分にとって青春の1ページとも言える珠玉のメロディーで、それはそれは繰り返し聴いたものです。プログレの要素は少ない部分ですが、19歳のマイクさんの感性が最も自然に表現されたとても重要なパートだと思います。とりわけ思い入れが深かったせいか、このパートは難航しました。このためにいったい何曲作ってボツにしたことでしょう!無理とは知りつつ、19歳の感性でないと作れないような、純粋なメロディーが沸いてくるのをひたすら待ちました。煮詰まると近所の森深い公園に散歩に行き、家に帰ってはひらめいたモチーフを記録する。昨年の春から夏にかけてそれの繰り返しで、当時の新緑の光景が思い出されます。結果的に45歳のわりには(^^;)純粋なメロディーが作れたのではないかと、ひとまず納得。タイトルは10数年前に行った大雪山中のお花畑のイメージから名付けました。女声コーラスはこのパートに絶対必要だったもので、情感豊かに曲を盛り上げてくれます。聴き手の皆さんそれぞれの“楽園”を感じていただけたらと思います。

ⅷ. storm  嵐

 楽園がにわかに曇り始め、突然嵐が吹き荒れます。わかる人にはわかる「燃える朝焼け」へのオマージュです(^^)。ドラムとベースもアルバム中、一番ロックしています。もちろんそれだけではつまらないので、ラテンパーカッションでガラリと雰囲気を変え、ピアソラ的なタンゴ風パートに展開させました。その辺り実験的な転調を取り入れていまして、いつの間にか転調している感じは結構気に入っています。再びハードなパートに戻って曲は収束、いよいよクライマックスへと向かいます。

ⅸ. soul trees  木霊

 このアルバムのクライマックスとも言えるパート。今回というか1stを作った頃から、自分の中で組曲の構成ポリシーはずっと一貫していて、組曲全体がバラバラな曲の集合ではなく、冒頭からそれぞれの部分が意味を持って展開し、クライマックスの盛り上がりに全てを集約させたいというものです。“オマドーン方式”と名付けています(^^)。1stタイトル曲は思いっ切りそれを意識していて、ちょっと恥ずかしいものがありますが、3rd収録の「ダンサ・ダス・ボルボレタス」で(7分弱の曲ですが)、オマドーンの影響がありながらも、燃焼系盛り上がり曲(?)として自分なりにやりたい事がやれた思いがありました。今回も「ダンサ~」の雰囲気を意識して作曲に取り掛かりましたが、やっているうちにある意味開き直って、悲壮感あふれるパーツを、思い向くままどんどん出せるだけ出してみようという気になりました。ボツにしたパーツも多く、つなぎ合わせるのに苦労し、かなりの生みの苦しみをともないましたが、こうして完成してみると、それぞれのパーツに意味を持たせて、クライマックスにふさわしい気迫ある曲に仕上げられたのではと自負しております。このパートだけというよりも、アルバム全体を通して聴いてきて、ラスト前にこのパートが出てくるという意義を感じていただけたら幸いです。しげそ氏のドラムソロ、北辻さんのバイオリンソロ、プログレ魂全開の熱演で花を添えてくれています。「soul trees 木霊」というタイトルでイメージしていたものは、深い森の中の巨木。具体的には屋久島の縄文杉だったり、島田荘司著「暗闇坂の人喰いの木(!)」だったりします。

ⅹ. dawn  夜明け

 「源流」のメロディーが静かに流れるとラストの締めくくりです。元々は「鬼哭街」というドラマCDのBGMでしたが、森の中の彷徨のあと、全てが終わって新たな朝がやってくるというイメージで、装いを新たに登場させました。川越氏のピアノが次第に遠ざかり、このアルバムの50分間、そして構想を含めた5年間の製作期間がやっと終わった、という達成感をもこのパートに込めてみました。

本当に長い闘いの(?)日々でした。あとは聴いていただく皆様にとって、この作品が末永く聴くに値する作品になることを祈るばかりです。ここまで手の込んだものは、生きている間にそうは作れないだろうという思いがあり、こうして形に残すことが出来て感無量です(ToT)。でも少し時間を置いたらまたチャレンジしたい、という気持ちも新たに沸いてきている今日この頃です。この場を借りて、ご協力・応援いただいた全ての皆様に心から御礼を申し上げたいと思いますm(_ _)m。長らくご精読いただきまして誠にありがとうございました。

                  2008.11.8  アストゥーリアス 大山 曜

大山曜

acoustic guitar, spanish guitar, electric guitar, bass, mandolin, keyboards, glockenspiel, harp, cello, percussions, synthesizer programming

津田治彦(g: 新月)

栗原務(g: Lu7)

平田聡(g: FLAT122)

花本彰(Mellotron: 新月)

川越好博(pf: Acoustic Asturias)

筒井香織(Clarinet, Recoder: Acoustic Asturias)

伊藤恭子(vln: Acoustic Asturias)

北辻みさ(vln)

佐々木しげそ(Ds)

那須野綾(Perc)

いとうかなこ(Cho)

Hassy(Cho)


Recording Engineer : Dani, Yoh Ohyama

Mixing Engineer : Yoh Ohyama

Mastering Engineer : Dani

Cover Design : Jiro Ohshima

Original Picture : Hiraku Ohyama

Asturias official site

Japanese Progressive Rock Unit Asturias Official Site (Multi Asturias / Acoustic Asturias / Electric Asturias) Official Site --- asturiasprog.com

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